新興国債券市場:明確な好材料がある一方で潜在的リスクに注視が必要となる理由

Brett Diment, Head of Emerging Market Debt

米国の利上げと米中貿易摩擦の激化に伴い、2018年は新興国市場にとりボラティリティの高い年となりました。米ドル高は大方の新興国通貨の下落を誘因し、トルコとアルゼンチンの通貨危機がさらなる市況の悪化を招きました。本稿では2019年の新興国債券市場の見通しについて考察します。

北京 - ワシントンの書簡

まず、ファンダメンタルズからは好材料が読み取れます。一部の国を除き、債券市場はシステマティックなリスクを示す水準には至っていないうえ、新興国の相対的に良好な成長がこの資産クラスの追い風となっています。確かに、短期的には、足下の成長はこのままゆるやかに継続すると見込まれます。一方、先進国市場との格差は今後益々拡大し、その結果新興国市場への資金流入は改善に向かうと思われます。

米国の成長サイクルもまた重要です。私達は米国経済の成長は低位に留まるとみていますが、リセッションにまでは至らないとみています。一方、米国連邦準備制度理事会 (FRB)は市場環境の変化に対応しています。今年1月30日の利上げ見送りは市場を動揺させました。投資家は年内にあと2回は利上げをすると予測していますが、その後は当面ないでしょう。FRBはまた、バランスシート縮小に向け「柔軟に対応する」との見解を示したことで、新興国通貨は即座に反応し上昇しました。

利上げ見送りというFRBのサプライズな決断は、多くの新興国市場にポジティブな効果をもたらした。

もう一つの潜在的なカタリストは中国です。米国による対中関税政策の影響に加え、中国経済自体も減速しているからです。2018年中国のGDPは6.6%超の成長を見せましたが、過去28年間で最も低い成長率に留まっています。しかし中央政府では次の金融緩和に向け準備が着々と進んでいるようにも見えます(チャート1)。規制当局はまた、中国企業の社債発行による資金調達の条件を改善し、地方のインフラ整備への資金確保のため地方債の発行も活発です。これらの対策だけでは景気刺激策としては不十分とはいえ、私達はさらなる金融緩和があり得ると予想しています。また、地方政府による地方債発行も活発になるかもしれません。法人税減税も可能性として考えられるでしょう。いずれの策も2009年や2015年、2016年に実施したインフラ投資にからむ大規模な景気刺激策に比べれば新興国債券市場へのポジティブな影響は小さいと考えられるものの、考慮には値します。

緩和の余地はあるように見える

出所:中華人民共和国国家統計局。Haver。Aberdeen Standard Investments (2018年11月時点)

このようにポジティブな材料がある一方でリスクもあります。最も顕著なリスクは米中の貿易摩擦による緊張関係です。しかしながら先日アルゼンチンで開かれたG20における一時休戦のニュースは好材料です。トランプ大統領のコメントも好感視されています。トランプ大統領は一般教書演説に先立ち、米中会談を「順調に推移している」とコメントし、関税協定で合意に向かう「良い機会」の可能性を示唆しています。中国経済の減速が懸念される中、中国政府も合意に前向きであると考えます。

いずれにしましても、米中の対立による影響はすでに市場には織り込まれていると考えられ、この対立関係の収束が新興国市場のセンチメント改善に繋がることは明白でしょう。

選挙が今後のカギを握る

国際政治も様々なリスクを示唆しますが、2018年のメキシコおよびブラジルの選挙の影響をマーケット全体が受けた時に比べ、今年は各国固有の要因により左右されるでしょう。例えばアルゼンチンにおいて、マクリ大統領は前大統領キルチネル氏と現在支持率でほぼ拮抗しています。マクリ氏は今年10月の選挙までに経済は回復に向かうことを期待していますが、その見方は楽観的すぎるように思えます。むしろキルチネル氏が勝利するほうが、この問題を解決できるかもしれません。過去にキルチネル氏はIMFによる資金援助に批判的で、同氏が選挙で勝利した場合、客観的にみてIMFに依存しない、真に必要とされる自主的な改革が将来的に進む可能性があるからです。

国際政治も様々なリスクを示唆しますが、2018年のメキシコおよびブラジルの選挙の影響をマーケット全体が受けた時に比べ、今年は各国固有の要因により左右されるでしょう。例えばアルゼンチンにおいて、マクリ大統領は前大統領キルチネル氏と現在支持率でほぼ拮抗しています。マクリ氏は今年10月の選挙までに経済は回復に向かうことを期待していますが、その見方は楽観的すぎるように思えます。むしろキルチネル氏が勝利するほうが、この問題を解決できるかもしれません。過去にキルチネル氏はIMFによる資金援助に批判的で、同氏が選挙で勝利した場合、客観的にみてIMFに依存しない、真に必要とされる自主的な改革が将来的に進む可能性があるからです。

ウクライナは国の財政破たんが懸念されている中、別の見方が必要です。現在同国はIMFの管理下にあることが功を奏し、重要な構造改革に着手できている点が再び投資家から好感されています。しかしながら、3月の大統領選が市況悪化の転機になるかもしれません。ティモシェンコ前大統領は現在支持率で明らかにリードしており、またロシアとの緊張が高まる中、潜在的に地政学的リスクの端緒になる危険をはらんでいます。

原油相場の影響

最後に原油相場です。2018年原油価格は低調であったものの、大方の新興国市場での想定より依然高めに推移しています。しかしながら原油価格のさらなる下落はハードカレンシー建てよりも現地通貨建て債券に有利に働くかもしれません。インドや他のアジア諸国のような原油輸入国の国債は、ハードカレンシー建て指数でエクスポージャーの高い輸出国に比べ、現地通貨建て指数における構成比率が高いからです。もちろん、投資機会があるということはそこにリスクが存在するということも事実です。

2019年の新興国市場は総じて、市場にポジティブに働く潜在的なカタリストが広範囲にみられ、リスクについてはかなり各国固有のものになるとみています。一方、米中貿易摩擦の高まりなどを受け、市場はすでにシステマティックなリスクの兆候を示し始めています。したがって私達の2019年の市場見通しとしては、新興国市場に追い風となる明確な好材料がある一方、潜在的なリスクには注視が必要ということになるでしょう。

ご留意事項
投資には様々なリスクが伴います。有価証券等の取引には様々なリスクと投機的な側面があり、利益を得られることがある反面、場合によっては投資した元本を割り込み、損失(元本欠損)が生じる恐れがあります。