エマージング市場:リスクは増大か、それとも低下か

2018年のエマージング市場はこれまでのところ軟調に推移しており、この数カ月は先進国市場を大幅に下回っています。これは主には世界的な要因によるものですが、個別国の政治不安も要因となっています。多くの投資家は、この下落が買いの機会なのか否かを考えています。それとも、慎重な姿勢を維持すべき理由があるのでしょうか。

この疑問に答えようと、アバディーン・スタンダード・インベストメンツのシニア・マネジャー、ストラテジスト、エコノミストが集まり、エマージング市場のリスクと投資機会について意見を交わしました。またゲストスピーカーとしてHSBC前会長であり現在は中国「一帯一路」計画の英国使節を務めるダグラス・フリント氏を招き、ユニークな知見を共有しました。

議論を始めるにあたり、まず出席者にアンケートを行いました。その結果、

  • 83%がエマージング市場のリスクが高まっていると考え、17%が低下していると考えている
  • 46%が米金利および米ドルの上昇は今後12カ月間のエマージング市場にとって最大のリスクとなると考え、25%が中国経済の減速が最大のリスクとなると考えている
  • 50%が今後12カ月間エマージング市場の中ではアジアが最も魅力的な投資機会を呈すると考え、20%がラテンアメリカが最も魅力的と考えている
  • 64%が今後3年間でエマージング債券が最も魅力的なリスク調整後リターンをもたらすと考え、36%がエマージング株式の魅力が最も高いと考えている

ことが明らかになりました。

債券と株式に対する見方、および選好する地域は興味深いものとなりました。討論会で行った議論は以下の通りです。

エコノミストの見解

最近のエマージング市場の下落には、個別国要因と世界的要因の両方が関与しています。

個別国要因としては、ブラジルやメキシコにおける政局不安の高まりが挙げられます。また、トルコ、アルゼンチン、ハンガリーなどでは、中央銀行の政府からの独立性が疑問視されています。こうした個別国要因の一部は、足元では改善に向かいつつあります。

もっと重要なのは、以下の3つの外的要因がエマージング市場に与える圧力です。

  • 米金利および米ドルの上昇:多くのエマージング諸国は巨額の米ドル建て債務を抱えており、米ドルが上昇すると、米ドル建て債務額も増加します。米ドルが重要であるもう一つの理由は、米ドル高は世界貿易を軟化させうるということです。さらに、エマージング諸国通貨が下落すると当該国の中央銀行に利上げ圧力が生じ、国内経済成長の足かせとなり得ます。
  • 中国の鉱工業生産の減速:中国の鉱工業生産の低迷をサービス業の好調が補っているため、経済成長は全体としては好調に見えます。ただし、より対外要素の強い鉱工業生産の減速は世界貿易に飛び火しており、それが中国以外のエマージング諸国にも影響しています。
  • 保護貿易主義:多くの小規模で開放的なエマージング諸国が、最近の貿易摩擦の影響を特に大きく被っています。そうした国々は、中国輸出企業に対する付加価値の損失という形で直接的な影響を被るだけでなく、多国間貿易離れの拡大という間接的な影響も被っています。実際のところ、関税引き上げ前ですら、センチメントの後退により貿易は軟化していました。

足元のエマージング市場の健全性に対する評価

エマージング市場は、各国の強みや脆弱性により、世界のイベントから受ける影響の度合いが異なります。我々は、危機の引き金となりうる脆弱性とバランスの悪さについて分析しました。その結果、ラテンアメリカ(コモディティ輸出への過剰な依存など)と欧州エマージング諸国(貿易の減速など)はリスクが高い一方、アジアのエマージング諸国は特にリスクが高いわけではないことが明らかになりました。

また、エマージング市場のファンダメンタルズは、この1年間でやや軟化したとはいえ、これまでのエマージング市場危機時と比べると力強さを維持しています。

3つのフォワードルッキングなシナリオ

  1. 足元のエマージング市場におけるストレス要因を勘案し、米国が追加利上げを先送りする可能性があります。2013年のいわゆる「テーパー・タントラム」や、2015年12月の次の利上げが1年後の2016年12月となった時と同じです。
  2. または、現在の状況が、2004年初頭に米国が利上げを開始した際に見られた市場の一時的な下落と同じ展開となる可能性があります。その間、グローバル経済成長、エマージング市場経済はともに堅調で、米国の利上げに耐え、その後エマージング市場は回復しました。
  3. もう一つ考えられるシナリオは、米国が予想を上回るペースで利上げを行い、米ドルがさらに上昇するというものです。その場合、中国の鉱工業生産が引き続き減速し、保護貿易措置が強まり、足元のグローバル経済成長の減速は継続する可能性があります。これらはいずれも特に極端な仮定ではなく、またエマージング市場への下方圧力を長引かせるものです。

ポートフォリオ・マネジャーの見解

エマージング株式 – Devan Kaloo

2015年の市場調整以降、中国以外のエマージング市場は循環的に回復しています。低金利と世界貿易の回復が国内の経済成長を押し上げ、それを背景に企業収益は改善してきました。また、企業収益の改善は当初はテクノロジーとコモディティに限定されたものの、最近ではそれ以外の内需系企業にも拡大しています。

エマージング株式市場は、ボトムアップによる個別企業レベルの観点から良好であると判断しています。バリュエーションについては、米国株式市場と比べると割安ですが、欧州株式市場やエマージング市場の過去の水準と比べると割安ではありません。

多くのエマージング諸国で予定されている選挙も、ボラティリティ要因となる可能性が大です。さらに、債務比率の比較的高い国がボラティリティにさらされます。中央銀行が金融緩和を縮小し始めると、借り入れコストが増大し、経済成長の足かせとなります。中国では、好調な経済が柔軟かつ自由な経済運営を可能にしていますが、比較的経済の脆弱な近隣国との貿易面のつながりが強いことから、中国当局が自国に何ら影響を及ぼさずにこうした潜在的リスクを抑制できる可能性は低いとみています。保護貿易主義やエネルギー価格の上昇がエマージング諸国の潜在的成長力をむしばむ恐れがあることなどから、環境は厳しさを増しています。また、供給サイド主導の原油価格の上昇はエマージング諸国にとって概してマイナスです。以上から、エマージング諸国にとってのリスクは増大していると考えられますが、同時に、ミスプライスによる投資機会も生じています。

ラテンアメリカの株価水準はリスクに対して割安であると判断し、我々のファンドでは現在ラテンアメリカをオーバーウェイトとしています。一方、アジアと中国はニュートラルとしています。

エマージング債券 – Brett Diment

多くのエマージング諸国は、2013年以降、財政状況が大幅に改善しています。エマージング債券の中では、バリュエーション面で引き続き米国投資適格社債やハイイールド社債に対して国債の魅力が高いと判断しています。その中でも米ドル建てエマージング国債は、過去の水準と比べて割高ではあるものの、年内の新規発行は限定的であることから、環境は依然良好です。現地通貨建てエマージング国債は実質利回りが魅力的(「実質」利回りはインフレを勘案したもので、そのインフレ率は大半のエマージング諸国で低水準にある)である上に、エマージング諸国通貨は割安です。エマージング社債は、金利上昇の影響が軽微であり、信用力が相対的に高いことから、ディフェンシブな質をもたらすことが見込まれます。

市場の見方

エマージング市場のリスクは増大しているものの、同時に投資機会も増大しており、中国の一帯一路計画などが特に注目されています。

一帯一路計画

中国の大規模長期計画「一帯一路」は、陸路と海路による中国の対外貿易の拡大を目指しています。この9,000億米ドル規模のプロジェクトには120カ国が参加しており、インフラ整備を原動力とした経済成長を強く望む多くのアジアおよび東欧諸国が参加しています。中国は、この自由貿易圏の形成に「ソフトパワー」を行使することにより、他のエマージング諸国への環境面での影響を軽減するとともに、経済成長を促進することで移行の強制感を低減しています。プロジェクトの成果が一部にとどまったとしても、一帯一路は参加国間の市場のつながり、経済成長、富の共有を促進することが可能です。一方、中国の同盟国以外の国にとっては、一帯一路は安全面での脅威ともなりえます。実際、米国は北米の公的機関を通じて(一帯一路の署名国である)南アフリカ諸国に金融支援を行っています。

痛みの拡大

中国は、ストックコネクトとボンドコネクトが、ファンド投資に利用可能な活発な資本市場の形成につながることを期待しています。現在もこれからも、国外から資金調達する際にネックとなるのは、信用力とガバナンスです。中国はそれを認識しており、ガバナンスと基準の枠組みの策定に取り組んでいます。しかし懐疑的な向きは、非中国企業の関与、ガバナンス、財源などに懸念を示しており、提案プロジェクトの規模に対してこれまでの投資額が極めて小さい点を指摘しています。

中国の焦点

ダグラス氏は、他のアジア諸国の一帯一路使節との対話から、地政学的リスクが特に大きいとみなされていると述べています。中国は貿易を米国、特にITセクターに大きく依存しており、今後は自国のIT知的財産を開発してそこから収入を得ようとしています。また、国際機関における米国の地位を徐々に奪回し、権力を拡大しようとしています。同時に人民元も自由化する見込みです。地政学的リスク以外では、中国政府高官は一帯一路向け資金調達が難しいことを理解しており、その対応策を探っています。また、鉄鋼など鉱工業における過剰生産能力の問題があり、それが世界貿易を歪めていることも認識しています。

リスクと投資機会の比較評価

エマージング市場には、上値余地の短期的な足かせとなる明白なリスクが存在しています。ただし、長期的に見れば、ますます多くのエマージング諸国企業に大きな機会をもたらす好ましいトレンドもいくつか見受けられます。エマージング諸国企業すべてが勝者となるわけではありません。また、国によってはときに法規制が緩く、地政学的不安もあることから、エマージング債券および株式への投資においては選別的姿勢を強める必要があります。ボトムアップによる慎重なリサーチおよび分析に基づく銘柄選択が重要であることは、強調してもしすぎることはありません。

ご留意事項
投資には様々なリスクが伴います。有価証券等の取引には様々なリスクと投機的な側面があり、利益を得られることがある反面、場合によっては投資した元本を割り込み、損失(元本欠損)が生じる恐れがあります。