2023年11月に発表したレポート「Have interest rates?」(英語でのみご提供)で、金利に関するabrdn(アバディーン)の見解を紹介しました。
※本レポートは機関投資家のお客様向けです。

要約すると、次のような内容です。

『金利は金融政策という名の山の頂に到達しました。主要中央銀行(日本銀行を除く)は、2024年晩春から初夏にかけてそれぞれの金融緩和サイクルが開始するまでの短い期間を過ごすことになります。債券相場は利下げを織り込み済みでしたが、abrdnは中央銀行が市場予想以上の利下げを迫られると判断したため、国債についてはオーバーウェイトを推奨しました。』

図表1が示すように、相場は利下げ予想を大幅に反映させ、abrdnの予想にほぼ沿う展開となりました。

図表1:0.25%の追加利下げを織り込み済み(2023年11月半ばから同12月末までの推移)

出所:abrdn、Bloomberg

しかし、11月のレポートで予想した利下げ幅拡大の時期は4カ月後でしたので、それが劇的なクリスマス・スペシャルとして4週間後に起きたことには、正直なところ驚きました。

そのため1月当初は、「次に何が起きるのだろうか」と自問していました。

2023年第4四半期の主な出来事

英国で恒例のパントマイムのシーズンが始まった11月下旬、米連邦公開市場委員会(FOMC)の12月会合の開催を静かに待つ金融市場ではFOMO(Fear Of Missing Out: 取り残される不安・恐怖)の気配が感じられました。

FOMCは12月会合の後、各委員によるフェデラル・ファンド金利の予想レンジを表すドット・プロット(金利予測分布図)を公表しました。その予測中央値は、2024年中に追加利下げを予想させるもので、市場予想と一致していました。このことがなぜ重要なのでしょうか。2022-23年の利上げサイクルで主要中央銀行は市場が予想するほどの利上げは行わないことを示唆していました。実際には市場の予想通りに利上げが行われました。12月に発表されたドット・プロットを見た投資家の間では今、中央銀行は利下げに踏み切り、市場の予想に沿う金融政策を続けるという見方が広がっています。

取り残されることへの不安(FOMO)についてはどうでしょうか?これまで見てきたように、新しい考え方は人々にすぐに受け入れられます。市場が変化すると、投資家はこれ以上動くのは無理だと思いがちです。ただし、そう思うのは変化の流れに乗ろうとするまでのことです。そして、これ以上動くのは無理だと思った投資家が、流れに乗るのは、次の大きな上昇局面を逃すことを恐れるあまり、そうせざるを得ないと感じるからです。その結果、市場トレンドは自己実現的になり得ます。

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長によるコメントがハト派的だったことから、12月の債券利回りは低下しました。多くの経済指標は、インフレが衆目の一致するような問題ではなくなったとする見方を裏付けるものでした。英国では、11月の消費者物価指数(クリスマスの数日前に発表)が10月の4.6%から過去2年で最低の3.9%に急落しました。これは、イングランド銀行を含むほとんどの予想を大きく下回る水準でした。確かに12月のインフレ率は、酒・たばこの値上がりがあったために0.1ポイント上昇しました。しかし、道のりが平坦でないのはいつものことです。政策金利は、金融政策という山の頂に到達し、今は下山(利下げ)開始を待っている段階というabrdnの見方は変わりません。

今の動きは2024年を通して続く?

abrdnは、12月の利回り低下は予想を正確に反映したものだったと考えています。下げ幅も予想とぴったり一致していました。しかし、タイミングはずれていました。

abrdnの見解では、利回り低下の勢いは(今のところ)終わったと考えています。1月の利回りは、12月にはちょっとお祭り騒ぎが過ぎたことを示唆するかのように、世界的に年末の値上がり分を修正する戻し相場となりました。それは、利下げがすぐに実施されるという期待の後退を意味します。さらに、欧州債券市場では例年通り年明けとともに新規発行が続き、利回りは上昇しました。月間ベースの発行額はすでに過去最高記録を更新しています。

FOMOを避けるためにも、abrdnは12月にチャンスを逃した投資家にとって、現在の利回り上昇局面は国債を購入する貴重な狙い目だと見ています。

12月を超える利回り低下の可能性は?

その可能性が現実となるには、経済指標が徐々に悪化する必要があり、失業率の急激な悪化や経済の低成長が起きる必要があります。それは恐ろしい「ハード・ランディング(急速な失速)」の序章を意味します。その可能性がないとは断言はできませんが、最新の経済指標にはその兆候は見られません。その理由を1つ挙げるとすれば、雇用率と賃金水準が極めて堅調に推移しているからです。

もちろん、インフレが高止まりするという代替シナリオにも触れなければなりません。このシナリオでは、中央銀行は金利を据え置き、債券はアンダーパフォームすると予想されます。

実際の経済活動の結果に基づくハード・データと市場の期待はインフレ率の低下と「ソフト・ランディング(軟着陸)」を示しています。そのため、abrdnでは、金融政策は「非常に景気抑制的」から「中立的」なものに移行すると予想しています。

2024年は債券に追い風となるのか(なるべきです!)

1月の利回りの戻しは、利回りの上昇局面に乗じて債券投資を再開しようと考える投資家には好機です。利下げサイクル開始は近づいています。開始時期は市場が予想するほどは早くはなく、サイクルのペースも市場関係者の多くが想定している以上に慎重なものになるかもしれません。それでもabrdnは、利回りは市場が12月に予想した水準まで下がると考えています。

「ソフト・ランディング」シナリオがabrdnの予想通りに展開すれば、世界中の債券市場で利回りは緩やかなペースで下がります。その場合でさえ、債券投資家のポートフォリオの利回りは4%を超えます。逆に「ハード・ランディング」シナリオに沿う流れになれば、中央銀行がそれに反応するために、利回りは劇的に下がります。いずれの場合でも、債券投資家にはキャピタルリターンがもたらされます。

最後に、2024年には政治が前面に出る市場展開が予想されることを付け加えておきます。2024年に世界人口のほぼ半分を占める50を超える国・地域で選挙が行われます。特に注目を要するのは、前職のトランプ氏と現職のバイデン氏の一騎打ちが予想される11月5日の米大統領選挙です。トランプ氏が勝利すれば、貿易、地政学情勢、市場に広範囲に及ぶ影響がもたらされるのは必至です。一方、秋に行われる英国の総選挙では、労働党が13年ぶりに政権を獲得する予想が高まっています。総選挙が近づきましたら、政権交代がもたらす影響についてabrdnの見解を紹介します。

おわりに

12月の債券利回りの低下は明らかに市場の先走りでした。その反動で、2024年に入ると市場は慎重になり、利回りも上昇しました。しかし、インフレは(ほぼ)抑制されており、経済のスローダウン(景気減速)が鮮明になっているために利下げサイクル開始は近づいています。1月以降続く利回りの上昇傾向の中では、債券を買う準備をするのが賢明です。