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キーポイント

  • 投資家は中央銀行がいつ利下げに動くか注目しています。
  • abrdn(アバディーン)の基本シナリオでは、質の高い債券は良好なパフォーマンスを挙げると思われます。
  • 銀行社債は投資魅力が高いものの、規模の小さな銀行の場合はリスクがあります。
  • 一部のレバレッジド・ローンやプライベート・クレジットは問題の発生が懸念されます。
  • 新興国債券(EMD)で良好なパフォーマンスを挙げるには、投資対象国の見極めが不可欠です。
中央銀行による2022年の急激な利上げに伴って債券利回りが上昇、2023年当初は債券市場の先行きに期待が膨らみました(図表1参照)。多くの債券市場では期待にたがわず堅調なトータル・リターン(クーポン収入とキャピタル・ゲインを合わせた総合収益)を得ることができましたが、最も利益を得たのは、より伝統的でより安全な債券ではなく、より高リスクの債券でした。

何が起きたのでしょうか。2023年の市場では2つのことが投資家を驚かせました。1つは世界経済が予想以上に力強かったこと、そして2つ目はそれによってインフレ率が予想を上回ったことです。

これは、中央銀行による予想以上の利上げの結果、市場の押し上げにつながる、投資家が待望する利下げへのシフトがそれだけ遅れていることを意味しています。

図表1: コンポジット(投資適格社債、ハイイールド債、新興国債券の合算)利回り推移(2010年以降)

出所:Bloomberg、BaML(バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ)指数、2023年10月。図表は説明のみを目的としています。将来のパフォーマンスを想定するものではありません。

2024年に予想される展開

債券利回りは依然として高水準にあります。それは常に良い出発点と言えます。一方、インフレ率はついに低下に転じましたが、そのことは米国、欧州、英国などの主要国・地域の金利がピークを付けた可能性を意味しています。

しかし、債券リターンの加速には、中央銀行による利下げが2024年下半期までに開始されることが必要となります。

米連邦準備理事会(FRB)による利下げサイクルと債券の歴史的関係を見ると、金利がピークを打った後、多くの債券で高いリターンが上がっていることがわかります(図表2参照)。

図表2:FRBによる過去4回の利下げサイクルと投資適格社債のトータル・リターンの推移

出所:Bloomberg、BaML(バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ)指数、2023年10月。図表は説明のみを目的としています。将来のパフォーマンスを想定するものはありません。

利下げの引き金は?

債務返済コストの上昇、中央銀行のバランスシートの縮小、融資条件の厳格化などの影響によってデフォルト(債務不履行)に陥る中小企業の数が増えています。

しかし、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴うロックダウン(都市封鎖)によって生じた過剰貯蓄とその後の労働市場の堅調な推移は上記の影響を相殺するにとどまらず、世界景気の予想以上の回復を支えてきました。

しかし、過剰貯蓄は米国などでは2023年末までにほぼ解消することが予想されています。借り入れコストの上昇はすでに自動車ローンやクレジットカードのデフォルト率の増加を引き起こしています。このことは、個人消費が2024年の早い段階で急速に冷え込むことを示唆していると言えます。

以上を総合的に勘案すると、2024年は、インフレ率のさらなる低下、雇用市場の若干の軟化、そして経済活動が減速してリセッション(景気後退)に陥るか、少なくとも多くの企業や多くの国がリセッションに似た状況に直面する年になると思われます。

中央銀行は、景気がインフレ率を目標に戻すのに十分なほど減速してきたと判断した時点で利下げに踏み切り、多くの債券市場にとって下支え要因となるでしょう。

我々の2024年の注目点

質の高い債券(国債及び投資適格社債):abrdnの「基本」シナリオ(「最も可能性の高い」シナリオ)では、質の高い債券への投資は、成長の鈍化、インフレ率の低下、中央銀行の利下げを受けて、特に良好なパフォーマンスを挙げることを予想しています。

リスク:予想外の経済回復とインフレ再燃が生じると中央銀行は再利上げを余儀なくされます。これは、年限の短い債券とマネー・マーケット・ファンドを除くほぼすべての資産クラスには悪い展開です。

予想以上に早い過剰貯蓄の解消:「より可能性が低い」シナリオでは、国債の良好なパフォーマンスを予想しています。その前提となるのは、市場による個人消費の過大評価です(その場合、リセッションは予想より深刻なものになります)。

リスク:このシナリオは、ほとんどの企業と銀行の社債が影響を受けることを想定しています。しかしながら、深刻なリセッションは、機敏な投資家にはハイイールド債など高リスク債券への最適な投資機会をもたらします。

銀行:2023年には社会の注目を集める銀行破綻が数件発生しましたが、多くの大規模な銀行は強力なバランスシートを維持し、収益性も良好です。そのことは、不良債権の若干の増加や融資基準の厳格化に対する緩衝となっています。債券利回りスプレッド(基準国債に対する当該社債の超過リスク相当分を反映した両債券間の利回り差)は現在もかなり開いています。これは選択的な機会の存在を示唆しています。

リスク:経営基盤が弱いのに過剰な不動産融資を行ってきた銀行が存在しますが、そのほとんどは中小銀行です。今後24カ月に総額2兆ドル超の不動産ローンの借り換えが必要になりますが、その多くは米国の地方銀行が融資してきたものです。

格付けの引き下げとデフォルト:投資適格社債について、abrdnはあまり懸念していません。それは、投資適格社債発行体の場合、利益率が高く、財務内容も堅実であるところが多く、信用格付けも引き下げというより引き上げにつながっているからです。

リスク:小規模かつ高リスクの企業に関連する債券デフォルトが増えています。この傾向は景気減速に伴って悪化が予想されます。そうした市場環境の中にあって、ハイイールド債のトータル・リターンは、クレジットの質の向上を反映して、過去の景気の減速・リセッション期間の平均を上回ることが予想されています。

レバレッジド・ローンとプライベート・クレジット:質の高いプライベート・クレジット投資では、その相対的な非流動性を補う格好でより高い利回りを得られるのが一般的です。abrdnはプライベート・クレジットにまとまった投資機会を見出しています。しかし、レバレッジド・ローン及びプライベート・クレジットが急成長の市場であり、急成長に伴う運用資金の流入増は往々にして融資条件の緩和につながり、それが新たな問題を引き起こす恐れがあることを認識しておく必要があります。

リスク:レバレッジド・ローンのデフォルト件数は、ハイイールド債のデフォルト件数をすでに超えましたが、債権者が回収できる債権の額は過去の平均を下回っています。プライベート・クレジットのリスクに注意が必要です。いずれにせよ、レバレッジド・ローン及びプライベート・クレジットの双方についても、問題は小規模な会社に集中すると予想しています。

新興国債券(EMD):この数年間、新興国の中でもより厳しい状況に置かれてきた市場のバリュエーションは低水準に下がったままです。その中から、価値を発掘するには適正な銘柄選択能力が不可欠です。今回の世界的な金融引き締めで第1陣に加わった新興国の多くは、利下げでも先陣を切ることが予想されます。これは現地通貨建て新興国債券の下支え要因になります。

リスク:新興国債券市場における投資適格債のバリュエーションは既にタイトになっているため、投資家が大挙して戻るには、米ドル安と米国債利回りの低下を待たねばなりません。ドルの大幅上昇、またはリセッションの深刻化が懸念される状況になれば、新興国債券市場の見通しは暗くなります。

まとめ

ここ数年間の債券バリュエーションとインフレ環境から判断すると、2024年は債券にとって良い年になりそうです。

しかし、2023年と同様に、2024年もすべて順風満帆に進むことはないでしょう。そのため、投資目標を実現するにはダイナミックなアプローチと投資先の国・企業の堅実な選択が必要です