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キーポイント

  • 実物不動産のバリュエーションは2024年には底入れして、新たな機会が創出される見通しです。
  • 不動産価格は調整局面を迎えており、債券に対するレラティブ・バリューは上昇に転じています。
  • ESG認証取得済み商業ビルの世界的な供給不足によって主要都市の一等地では賃貸料が上昇しています。
  • 金利の低下に伴う株価の回復は不動産投資信託(REIT)には追い風です。
  • 銀行が新規融資を抑制する姿勢を強めているため、不動産ローン市場での投資機会に拡大余地があります。
不動産市場が厳しい環境に置かれてから2年が過ぎようとしていますが、2024年は、この2年間に打ちのめされ、痛手を被った不動産投資家にとって転換点となるのでしょうか。その答えは主観的にならざるを得ません。それは、一部の投資家には引き続き試練が、他の投資家には機会がそれぞれもたらされることが予想されるからです。

厳しい状況は去りましたが、不動産という資産にとって空はまだ晴れていません。快晴を迎えるには、克服しなければならない循環的及び構造的な課題がいくつかあります。

そうした中にあっても、abrdn(アバディーン)は、相対的に混雑していない(less crowded)市場では2024年は優良な物件を大幅なディスカウント価格で選別的に取得する魅力的な投資機会があると考えています。

リファイナンス圧力は続くものの、レラティブ・バリューが復活

不動産市場が今回経験した市場規模の修正は持続的な衝撃波を引き起こしています。

借入依存度が高い投資家には特に厳しい市場環境が続きます。過去に借り入れた低金利固定ローンは現在の高金利環境下で借り換え期を徐々に迎えつつありますが、銀行は融資要件の厳格化を進めると同時に、商業不動産部門への融資残高も削減しています。

英国とその他の欧州諸国における不動産ローン残高のうち約2,840億ユーロ(3,120億米ドル)は2024年に借り換えが必要になるとされています。2023年比で7%増になります(図表1参照)。

残念ながら、不動産価値が低下しているために、担保不動産の価値をはるかに超えるローンの割合は増える傾向にあります。このことは、ローン契約のLTV(資産総額に対する有利子負債の比率)がコベナンツ(財務制限条項)に抵触するリスクにさらされていることを意味します。

図表1:欧州及び英国の負債残高(満期年別、10億ユーロ)

出所:Listed REITs/PropCos under Green Street coverage. AEW, Bayes Business School CRE Lending Report, Company disclosures, Green Street, abrdn 、2023年9月

2024年には多くの投資家グループが負債削減、ファンドの解約対応、バランスシートの立て直しなどのために資産の売却を迫られる見通しです。

米国の不動産市場調査会社であるMSCIリアル・キャピタル・アナリティクス社によると、2007-2008年の世界金融危機が引き金となったディストレスト不動産の売却がピークに達したのは危機から5年後でした。これは、不良債権やファンドの清算の最終処理までにはそれだけ長い時間がかかることを示しています。

しかし、市場の調整局面そのものは、(処理に要する時間とは別に)コア不動産価格が相対ベースで魅力的な水準まで低下することを意味します。予想よりも緩やかではあるものの、債券利回りと不動産利回り格差(スプレッド)はその長期平均に向けて拡大し始めています(図表2参照)。

図表2:国債とプライム・オフィスの利回りスプレッド(%)

出所:ロンドン証券取引所グループ(LSEG)国債利回り、Savills, Cushman & Wakefield, CBRE prime office yields 、2023年11月

欧州では、「プライム・オール・プロパティ(prime all property)」不動産利回りは2022年6月と比べて1ポイント上昇して5.3%となっています。これに対して、2023年11月時点のユーロ圏の加重平均債券利回りは3.5%でしたので、不動産投資利回りは債券利回りを1.8ポイントも上回っています

現在のユーロ債券利回りと欧州不動産投資利回りのスプレッドは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)前の4ポイントを大幅に下回っていますが、2024年には不動産投資利回りのさらなる上昇と(金利と同調した)債券利回りの低下が予想されていることを考え合わせると、不動産資産は機関投資家の「BUY(買い)」リストに復活するコースを進んでいると考えられます。

パフォーマンス向上の主要因:セクター・アロケーションと資産のクオリティ

セクター・アロケーションは今後もポートフォリオ全体の相対的パフォーマンスに影響をもたらし続けるものと思われます。牽引するテーマと景気回復よって、特定のセクターの見通しが他のセクターよりも良くなるでしょう。

今後数年については循環的およびテーマ別の視点から想定すると、市場の個別セグメントによって異なる展開が予想されます(図表3参照)。

図表3:テーマ要因と循環要因の長期的影響

出所:abrdn、2023年11月。図表は、特定のデータに基づくものではなく、関連セクターの傾向に関するabrdnの見解をテーマ別視点に沿って視覚化したものです。個々のセクターについての特定の資産配分に関する助言を構成するものではありません。

賃貸市場成長見通し:質の高いサステナブル・ビル需要の高まり

質の高いサステナブル・ビルの供給不足がより鮮明になっています。不動産市場の開発サイクルは、世界金融危機以来、ほぼ中断されたままです。

この10年を見ても、ユーロ圏危機、英国のEU離脱(ブレグジット)、新型コロナウイルスのパンデミック、そして現在も続くウクライナ戦争と金利上昇が、不動産市場における新規供給を制限してきました。さらに、建設コストの高騰(約30%)、人手不足、開発資金調達コストの上昇が重なり、新規供給の見通しは急速に悪化しています。

不動産市場は、「未来型(future-fit)」不動産と「その他」不動産というスピードの異なる2つの市場と化しつつあります。テナントの間では「最高クラス」のサステナブル不動産を選好する傾向が強いものの、そうした不動産にふさわしい土地は限られたままのため、土地取得競争は結果として、プライム・オフィスの賃料を押し上げています。

一方、不動産のエネルギー効率化規制によって、エネルギー効率改善費などを積み立ててこなかった古い不動産の場合は投資家にその費用負担が求められます。そうした負担をわざわざ引き受けるために古い物件に投資する人が現れることはほとんど考えられません。この規制によって古いビルの老朽化のペースが速まっている可能性があります。

不動産市場におけるクオリティの二極化は、2024年及びその後のパフォーマンスの重要な差別化要因となります(図表4参照)。図表は、ロンドンの質の高いオフィスと低いオフィスの2022年におけるパフォーマンスの違いを示しています。

図表4:オフィス投資リターンの二極化(クオリティ別、2023年第3四半期までの12カ月間、%)

注:全体の下位25%相当利回りは「プライム」のプロキシ、全体の上位75%は「最低クオリティ」のプロキシです。 出所:MSCI、abrdn 、2023年9月

不動産への直接投資、間接的な投資、デット投資のすべてで魅力的な機会

ここまでは実物不動産のパフォーマンスについて見てきましたが、回復基調にある不動産への投資機会へのアクセスには、いくつかの選択肢があります。それは、実物不動産への直接投資、REITやマルチマネジャー運用を通じた間接的投資、そして不動産デット戦略への投資です。

abrdnは、これらの3分野が2024年にはそれぞれに異なるものの、同様に魅力的な投資機会をもたらすと確信しています。

直接不動産投資:実物不動産のバリュエーションについて、abrdnは2024年には底を打つと予測しています。底打ち局面では、市場全体が回復に転じる前に、質の高いサステナブル資産を割引価格で購入する幸運に巡り合う可能性が高まります。インカム・ゲインを狙う「コア」戦略、インカム・ゲインとキャピタルゲインの双方を狙う「バリューアッド」戦略のいずれも魅力を増してきます。さらには、価格の歪み(ディスロケーション)が興味深いM&A(合併・買収)の機会をもたらすこともあります(図表5、図表6参照)。

上場不動産投資信託(REIT)及びその他の間接投資:2022年以来、グローバルREITの株価はグローバル株式に対して20%超も割安で推移してきました。そのことは、REITの回復幅がそれだけ大きくなることを意味しています。相対ベースでは、利上げサイクル終了後にはREITが上場株式をアウトパフォームする傾向があります。例えば、世界金融危機直後からの1年間の振り返ると、上場グローバルREITの上昇率は74%で、株式の49%を大きく上回っていました。同じような傾向は米連邦準備理事会(FRB)が1974年12月に金融政策をマネタリー・ターゲティングに変更した直後にも見られました。私募不動産投資商品も、原資産に対して割安で推移していますので、投資家にとっては見逃せません。回復が期待できそうにない投資対象について、一部の投資家は、ファンドによる保有不動産の売却を待たずにセカンダリ市場でファンド持分の売却を通じてエグジットする構えを強めています。このため、新規投資家にとってセカンダリ市場でファンドの持分を割安で取得する機会が見られています。

不動産デット投資:不動産デット・ファンドは商業不動産を運用対象としているため投資家には興味深いキャッシュ・フローがもたらされます。ノンバンクの貸し手にとっては、すでに価値が大幅に低下している資産の場合、低いレバレッジの取引が可能なため、リスクの観点からも魅力的な機会となります。高いセーフティ・マージンの確保とかなり高い基準金利の設定が組み合わされば、長期平均を大幅に上回る利息収入を得ることが可能になります。現在の市場における負債調達における需給ギャップ水準と銀行が新規融資に慎重になっている状況を考えると、ノンバンクの貸し手には自社の希望通りの条件による融資を実現させる機会が増えています。

図表5:グローバル不動産トータル・リターン予想(年率%)

図表6:グローバル不動産セクター別トータル・リターン(年率%)

出所:abrdn、2023年9月。予測は、将来の結果の信頼できる指標ではありません。また、図表で紹介した内容が達成されるという保証はありません。

まとめ

abrdnは、市場が今日も直面する課題については慎重な見方をしていますが、2024年の市場は興味深い機会をもたらし、不動産投資への新規配分への当たり年(ヴィンテージ)になると確信しています。

優れた相対的パフォーマンスを実現するうえでセクター・ポジショニングの重要性は変わりませんが、クオリティ、ESG(環境・社会・ガバナンス)クレデンシャル、それにロケーションを重視する運用方針の明確化も大きな効果をもたらします。

市場リスクは高止まりをしたままですが、不動産市場は、サステナブル資産の構造的な不足が決定的となっている中で、堅調さを取り戻しつつあります。投資家は、今こそ新しい投資機会の発掘に乗り出すべきです。

  1. 出所:abrdn、ロンドン証券取引所Datastream、2023年11月